文系アクチュアリーの明日も上乗せ

文系出身のアクチュアリーが迷走しながらこの世への貢献を目指すブログです

Embedded Value(EV)対DCFその2

こんにちはそる丸です!

みなさん夏を満喫されてますでしょうか?

僕は今週の山の日を楽しみにしております!たった一日ですが、大人になってから8月は祝日なかったですからね。

子供の頃と大違いです!


さて今回は前回に引き続き、EVとDCF法の違いを掘り下げてみたいと思います!
前回よりは少し込み入った話をしますが、ついてきてもらえると幸いです!

 

前回の記事はこちら↓

 

www.bunkeiactuary.com

 

なぜ配当可能利益で株主価値を測るのか

本日はEVの計算式で登場する保有契約価値の説明を行う予定ですが、その前に「株主価値を測るときは、なぜ『利益』でもなく『配当額』でもなく『配当可能利益』をものさしとして使用するのか」このお題について少し考えてみましょう。

 

1、なぜ「配当額」を使用しないのか

結論から言えば、コーポレートファイナンス理論では、利益が配当されるか、企業内に留保されるかの選択は株主価値に影響を与えません。

 

例えばこんな例を考えてみましょう。
A社は新興の企業で毎年すごい勢いで利益を伸ばしています。
そんなA社のCFOがこう言いました。


「今年は配当ゼロ円ね。でもその分、配当する予定だったお金を事業に回して来年5倍にして配当するから」

 

これみなさんどう思いますか。このCFOの発言が本当に実行されるのであれば、かなり魅力的な案件だと思いませんか。
これなら今年配当ゼロ円でもいいと思っちゃいませんか?

 

そうなんです。この例で分かるように配当がゼロ円であること、それ自体は特に問題ないんですよね。


むしろ会社内で魅了的な投資案件がたくさんあるなら配当せずにそっちにお金を使ってくれた方がいいと投資家は思ってます。

 

なので配当額が少ないことをもって株主価値が下がることはないですし、多いからといって株主価値があがることもないです。


ただし上記の例でCFOの約束が守られず、配当する予定だったお金が損失で消えてしまったなら、株主価値は下がります。でもゼロ円配当を宣言した時点では発言の成就は不明ですので、株主価値への影響はないです。

 

2、なぜ「利益」を使用しないのか

次はなぜ「利益」が株主価値のものさしとして使用されないのか、これを考えてみましょう。
この場合も極端な例がわかりやすいです。

 

例えば今期100万円の利益を上げたA社という会社がありました。
しかし諸事情で50年間は配当ができません。しかもA社はその50年の間にその100万円を利殖して増やす気もありません。

 

一方でB社も今期100万円の利益を上げましたが、全額を今期に配当すると宣言しています。
A社とB社の100万円の利益の価値は投資家にとって同じでしょうか・・・

 

違いますよね。B社の100万円の利益のほうが価値が高いです。
なぜなら投資家はいま100万円の配当を受け取れば、それを他の機会で利殖できるからです。
50年もあれば結構な金額を増やすことができます(今の日本はマイナス金利ですがそこは考えないことにします・・・)。

 

上記の例は極端でしたが、利益で株主価値を測ろうとすると上記の2社の差がうまく表現できないことがわかってもらえたかなと思います。

 

さてここまで株主価値と配当・利益の関係を学びました。それは

 

利益が配当可能であるかどうかは株主価値に大きな影響がある、一方で実際に配当するかどうかは株主価値に影響がない。

 

ということですね。

そしてこれが「配当額」と「利益」が株主価値の算定に使われない理由でもあるわけです。

 

 

FCFの意味を考える

前置きが長いですが、もう一個追加で吟味したい内容があります。それはDCF法におけるFCFについてです。

FCFは下記の式で表されました。

 

FCF=税引後営業利益+減価償却費-設備投資額-運転資金の増加額

 

もう一回この式の意味を考えてみましょう。
まず「税引後営業利益+減価償却費」、これはその企業が今期に得たCFを擬似的に表してます。
そして、そこから設備投資額と運転資金の増加額を引いている。

 

さてこの引き算は何を意味するんでしょうか。

前回お話したとおり、FCFの式は配当可能利益を簡易的に近似したものです。


ではFCFと当期に得たCFの違いは何か。

それは会社内に留保しておくお金を考えてるかどうかの違いです。

 

例えば、事業が拡大場面にある会社の場合、追加で設備投資が必要だったり、運転資金が増加するということが発生します。そういう場合はその分を配当せずに会社内にプールしておかなければならないです。
なので、その分はCFから引かないと配当可能利益を表現することができません。

つまり

 

得たCFを全額配当に回すことはできない。だから「-設備投資額-運転資金の増加額」の部分が必要である。


ということですね。

 

EVにおける保有契約価値

いよいよ本題の保有契約価値の計算の説明です。

さてEV(MCEV)における保有契約価値は下記の式で表現されます。

 

保有契約価値=確実性等価利益現価−オプションと保証の時間価値−フリクショナルコスト−ヘッジ不能に係る費用

 

はい。よくわからないですね・・・

細かいところに触れだすと大変なので、本日は主役である「確実性等価利益現価」、これがなんであるのかを理解しましょう。

 

「確実性等価利益現価」これは保険の保有契約から発生する将来利益の現在価値です。
ただしDCF法ではCFベースで考えましたが、確実性等価利益現価は利益ベースの指標です。なぜなのか?

 

これはCFベースだと不都合があるからです。

 

下記のような例を考えてみましょう。

X保険会社は毎年25の保険料を得ますが、その代わりに4年目の終わりに100のお金を返します。

するとCFは下記のとおりになります。

 

f:id:bunac:20160808004225p:plain


現実よりかなりシンプルですが、そこはわかりやすくするための簡略化だと思ってください。
1~3年目はプラスのCFで4年目だけはマイナスCFです。

 

ではこのCFで株主価値を評価していいか。
だめなんですよね。なぜならこのCFは配当可能ではないからです。

 

保険会社は将来の保険金の払いに備えるために保険料の一部を社内に留保しなければなりません。
この留保している金額は責任準備金といわれ、BS上で表現されます。

 

一方で責任準備金にお金を積み立てるときはPL勘定で責任準備金繰入という科目を使います。積み立てる額を費用として計上して利益にならないようにするんですよね。
責任準備金繰入を追加して表現したPLが下記です。

 f:id:bunac:20160808004248p:plain

責任準備金繰入はCFには影響を与えず、会計利益のみに影響します。全期間利益0になるわけですね。

 

さて株主価値を測るには配当可能利益が大切だという話をしましたが、CFと会計利益どちらが配当可能利益に近いでしょうか。

 

答えは会計利益ですね。4年目の100の支払いに備えるために、1〜3年目に得た保険料は社内に留保しなければならないからです。

 

逆に保険会社にDCF法を適用すると、なぜうまくいかないのかも同時にわかってもらえたんではないでしょうか。

 

DCF法では設備投資額や運転資金額の調整を行うことで配当可能利益を算出してました。この責任準備金繰入額も同じ役割を果たしていると思ってください。

 

また詳細は次回に説明しますが、保険会社では最低資本規制が存在するため、そこを割り込むような形での配当はできないというルールもあります。
それを考慮するうえでもCFベースではなく、利益ベースで計算した方が都合がよいのです。

 

 

さて長くなりましたので、今日はこの辺にして、次回は保有契約価値の式の残りの部分、「オプションと保証の時間価値」「フリクショナルコスト」「ヘッジ不能に係る費用」の説明をしようと思います。
よりテクニカルな部分ですが、頑張って解説します・・・


それにしても文章でテクニカルなことを説明するのって難しいですね。
ちょっとずつブラッシュアップしてみなさんに分かりやすく説明できるように努力したいと思います。