Embedded Value(EV)対DCFその3
みなさんお久しぶりです!
そる丸です。
前回の更新から一か月空いてしまいまして久しぶりのエントリーでございます。
8月は夏休みがあってうれしかった半面、ややプレッシャーのかかるお仕事も何件かありまして、なかなか辛い月でございました。
一方で8月は仕事の下準備で大量のインプット作業ができました。主にリスク管理関係なのですが、いずれこのブログでも書いていきたいと思ってます。
気が付いたら今年のアクチュアリー試験申込の締め切りも過ぎてましたね。
受験生の皆さんは、12月の試験に向けて頑張るだけですね。みなさんが質のいい勉強時間を確保できることを期待してます!
今回はEV対DCFの第3回目ということで、EVの話で書き残した部分の説明をしていきたいと思います。
前回にも増してテクニカルな話ですが、なんとか頑張って説明したいと思います!
前回の記事はこちら↓
EVの計算式のおさらい
さてまずはEVの計算式のおさらいからはいりましょう。
EV=修正純資産+保有契約価値
保有契約価値=確実性等価利益現価-オプションと保障の時間価値-フリクショナルコスト-ヘッジ不能にかかる費用
この中で説明が終わってないのは、以下の三つの項目です。
- オプションと保障の時間価値
- フリクショナルコスト
- ヘッジ不能にかかる費用
どれも重要なんですが、今日は「ヘッジ不能にかかる費用」の説明に重点を置こうと思います。
資本コストとは
「ヘッジ不能にかかる費用」、これを理解するためには資本コストへの理解が必要です。ですのでそこから説明したいと思います。
資本コストこれは一言でいうと、株式の利息のようなものだと思ってください。
企業がお金を調達する場合、固定利息を払うことを約する資金の調達の方法(以下、Debt)と、利益・会社資産を分配する形式での資金調達の方法(以下、Equity)があります。
Debtの代表が債券・銀行借入、Equityの代表が株式発行ですね。
Equityには明示的な利息せず、配当可能利益が利息としての役割を果たします。
EquityはDebtのように毎年コンスタントに決まった額の利息を払う必要はありません。また不可抗力的に、例えばその年の営業活動が不調に終わったときなどは、配当可能利益がゼロ円になってしまうときもあります。
ただ長期スパンでみれば、Equityの保有者はDebtの保有者と比較して多くの利息を期待しています。
なぜならEquityの利息、つまり配当可能利益の額は、Debtと比較して不安定だからです。不安定な分、多くの利息を払わないと誰もEquityに投資しなくなってしまいます。
Equityは、単年度では配当可能利益がない年があってもよい。一方で中長期的にはDebtより多くの利息が要求されているわけです。
資本コスト、配当可能利益、株式価値の関係
ではEquity保有者の期待未満の配当可能利益しかあげられなかったらどうなるのか。
Equityの代表例である株式で説明すると、下記のようなイメージです。
A企業は10,000株を発行している企業で現在の1株あたりの価値は10,000円です。
株主はA企業が毎年7%の配当可能利益を生み出すことを期待しています。しかし、ある年を境にA企業は年あたり350万円の配当可能利益を生み出すのが限界になりました。
さてこの場合、A企業の株式価値はどうなるでしょうか。
冒頭での1株の値段は10,000円です。この時点で株主は毎年この10,000円の7%、つまり700円の配当可能利益を生み出すことを期待しています。これは会社全体では700万円/年の利益です。
しかしA企業は350万円の配当可能利益しか生み出せなくなりました。1株あたりになおすと350円です。株主の期待を下回っているわけですが、この場合株式価値はどうなるか。
この場合、A企業の1株当たりの値段は5,000円に下がります。なぜかというと7%の株主の期待を固定して考えると、1株当たり350円の利益にマッチする株価が5,000円になるからです。
Equityも黙示的に一定の利息が課せられているわけですが、その期待に応えられなくてもデフォルトすることはありません。ただしEquityの価値が下がることで調整されるわけです。
ヘッジ不能にかかる費用
EVの話にもどります。「ヘッジ不能にかかる費用」これは保険会社に課せられている資本コストです。
保険会社は倒産を避けるために一定の資本を保有しなければなりません。
もちろん保険会社は利益を上げられる水準で保険料を設定しているのですが、そんな保険会社も損失を被る時があります。
例えば、想定していなかった事態で保険金が大量発生したり、金融危機のような市場の混乱が原因で保有している金融資産の価値が下落してしまったりというときです。
このような事象で損失を被ったときでも倒産しないように損失吸収資本を確保しておく必要があるのです。
この損失吸収資本の代表例がソルベンシーマージン規制といわれるものです。保険会社はソルベンシーマージン比率が200%以上となるように資本を積んでおく必要があります。
ではこの資本を用意してなかった場合はどうなるか、この場合は保険業法に基づいて営業停止が言い渡されます。
損失が顕在化した時に営業停止になるのではなく、損失が未発生であっても損失に耐えられる資本をもっていないとみなされた時点で営業停止になる仕組みになっています。
厳しいですが保険契約者の保護のためにこのような規制になっているんですね。
一般事業会社の多くにはこのような規制はありません。保険会社はこのソルベンシーマージン規制のせいで一般事業会社より資本を多く積むことを要求されている、つまり配当可能利益が制限されているといえるわけです。
この配当可能利益の制限分のコストを企業価値に反映させなければ一般事業会社とフェアな比較ができません。
そこでEV計算においては、必要とされる資本に対する将来各時点におけるコストを実額で計算して、その現在価値を「ヘッジ不能にかかる費用」として「確実性等価利益現価」から差し引いています。
数字で表すと下記のようなになります。
ここで資本コストを実学で計算している代わりに、現在価値を算出するときの割引率にはリスクフリーレートを使用します。
DCFでは将来におけるFCFをリスク加算後のレートで割り引きますので、ここはリスク繁栄の手法が異なるということですね。
「オプションと保障の時間価値」・「フリクショナルコスト」
最後にこの二つに軽く触れておきましょう。
「オプションと保障の時間価値」は「確実性等価利益現価」が契約者行動によってゆがめられることがあるので、それを調整するための項目です。
例えば保険料を計算するときには簡易的に解約率を毎年一定と見込んで計算することが多いのですが、契約者は自分が得になるタイミングで解約しようとしたりしますので、それによって想定の解約率がゆがめられることがあります。
そうなると想定していた確実性等価利益現価より損する可能性が高いわけです。それをあらかじめ見込んで負債に上乗せを行います。
「フリクショナルコスト」は損失吸収資本を保険会社が運用するためのコストです。運用のための人件費や運用利益にかかる税金ですね。
これも将来の各年におけるコストを見込んで現在価値を負債に上乗せします。
ともにDCFではない概念ですが、確実性等価利益現価に正確にコストを反映させるための調整だと思ってください。
まとめ
さて今回で一通りは説明できたので、EVシリーズは一旦終了です。
最後、若干省略気味になってしまいましたが、気が向いたときに徐々にアップデートしていきますのでお許しを・・・
それにしても専門的なことを言葉に表して表現するのは難しいですね。それがアクチュアリーという専門職に求められている役割なわけですが、僕はまだまだだなぁと実感しました。これからも精進していきたいと思います。